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東京高等裁判所 昭和62年(行コ)16号 判決

埼玉県川口市並木三丁目三番二四号

控訴人

酒井強

右訴訟代理人弁護士

五十嵐利之久

埼玉県川口市西川口四丁目六番一八号

被控訴人

西川口税務署長

江森武

右指定代理人

田口紀子

和栗正栄

猿山利晴

松沢敏幸

玉木英一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、昭和五一年一二月一〇日付でした昭和四七年分所得税決定処分及び無申告加算税賦課決定処分並びに昭和四八年分、昭和四九年分、昭和五〇年分の各所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決(以下、同じ。)一三丁裏末行の「一二七万四四八二円」を「一二七万四四八五円」と、一四丁裏一〇行目の「四五八四万四六一九円」を「四五八四万四六一六円」とそれぞれ改める。

二  一七丁表三行目と四行目の間に改行して次のとおり加える。

「(四) 被控訴人は、原審において、金融機関その他に対する反面調査を継続して行って資料を収集し、これに基づき控訴人の所得の追加主張をしているが、国税通則法二四条によれば、更正は、調査によりなされるものであり、本件更正処分の直接の前提となった調査以外の調査により他に所得の存在することが判明しても、それにつき別途処分するは格別、本件更正処分の根拠として後日流用することはできないものと解すべきである。」

三  二二丁裏一〇行目の「及び4」から末行の「不知、」までを「の事実は否認する。同4の事実については、4(四)(1)のうち、控訴人が昭和四九年四月植木芳雄に対し土地、建物を売り渡したことは認め、同人に支払能力がなく、代金二六〇万円が回収不能となったことは否認し、その余の事実は不知、同4の事実中、」と改める。

四  二五丁表八行目と九行目の間に改行して次のとおり加える。

「(四) 控訴人主張1(四)に対して

課税処分取消訴訟の訴訟物は、課税処分により認定された所得額が客観的に存する実際の所得額を超えるか否かであるから、課税庁は、その取消訴訟において、処分時の処分理由と異なる理由を主張して課税処分を維持することができる。」

五  二七丁裏七行目の「本件」の次に「原、当審」を加える。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決(以下、同じ。)二九丁裏二行目の「結果」の次に「(原審)」を、三〇丁表五行目の「調査を」の次に「開始」を、八行目の「原告は」の次に「、当初、ただ自分が現在苦境にあることを述べるのみで、右協力要請に応じようとしなかった。しかし、その後の協力依頼に対し、ようやく」を、三一丁表末行の「不動産」の前に「控訴人からの」を、三一丁裏五行目「税務署」の前に「本件事務所での面接調査並びに」をそれぞれ加える。

2  三二丁裏八行目から三三丁裏八行目までの間の各「原告本人尋問の結果」の次に「(原審)」を、三四丁裏六行目の「第二七号証」の次に「の一」をそれぞれ加え、三五丁表八行目と九行目の各「第四一号証」を「第四九号証」と改め、一〇行目の「認められる」の次に「乙」を加え、末行の「別表1」を「別表2」と、三七丁表九行目の「第二七号証の四」を「第二七号証の三」とそれぞれ改め、末行の「証人」から、同行から同丁裏一行目にかけての「認められる乙」までを削り、同丁裏七行目の「認められる」の次に「乙」を加え、三九丁表末行の「及び第三〇号証の一、二」を「、第三〇号証の二及び証人内田守一の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第七二号証」と、同丁裏一行目の「第二七号証」から、二行目から三行目にかけての「乙第二四号証の三」までを「第二七号証の五」と、四〇丁表末行の「第二四号証」から同丁裏一行目の「一、二」までを「第三〇号証の一、第四九号証の一、二、証人新井一弘の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第二四号証の二」と、四一丁表二行目の「第二八号証」を「第二一号証」とそれぞれ改め、四三丁裏一行目から二行目にかけての「前掲乙第二一七号証、」を削り、四五丁表九行目の「第二七号証の二八」を「第二七号証の八」と改め、四七丁裏末行の「証人」から、同行から四八丁表一行目にかけての「認められる乙」まで、同丁表六行目の「証人」から、同行から七行目にかけての「認められる乙」までをそれぞれ削り、四九丁表一〇行目、五一丁表九行目、同丁裏九行目から一〇行目にかけて、五二丁表七行目、同丁裏二行目、六行目、八行目の各「認められる」の次にいずれも「乙」を、五三丁表二行目の「結果」の次に「(原、当審)」を、六行目、九行目、一〇行目、末行から同丁裏一行目にかけて、一〇行目の各「認められる」の次にいずれも「乙」をそれぞれ加える。

3  五五丁表一行目冒頭から一〇行目未尾までを次のとおりに改める。

「原本の存在及び成立に争いのない乙第一七八号証によれば、斉藤弘を買主とする昭和五〇年一二月三日付土地付建物売買契約書が作成されており、その未尾の売主欄にはゴム印で「埼玉県蕨市中央一丁目一五番四号酒井建設株式会社電話(〇四八四)三二-五一二一(代表)」と記名されていることが認められ、右によれば、右売買の売主は控訴人個人ではなく、同会社であるかのようにみえる。しかし、成立に争いのない乙第二四〇号証、第二四一号証によれば、同会社は、昭和五〇年一一月一〇日、不動産の販売及び仲介等を目的とし、控訴人を代表取締役として設立登記されたものであるが、設立当初から少なくとも昭和五四年頃まで宅地建物取引業の免許を受けておらず、昭和五一年三月の決算期において売上金額は零であったことが認められるのであって、本件全証拠によっても昭和五〇年一一月、一二月当時右会社が実際に営業活動をしていたことは認められない。そして、右(1)に掲げた乙号各証及び控訴人本人尋問の結果(原審、後記採用できない部分を除く。)によれば、右契約書の前示売主欄の住所、電話番号は、当時控訴人が個人として営業活動をしていた酒井建設の事務所の住所、電話番号と同じであり、売主名下の印影も、控訴人が酒井建設名義の契約書に押捺していた印鑑により顕出されたことが認められる。これらの事実によれば、右売買契約書作成の際控訴人の個人営業を示す「酒井建設」のゴム印が押捺されるべきところ、誤って右会社のゴム印が押捺されたものと推認され、右売買は控訴人の個人営業である酒井建設を売主としてなされたものであって、別表4順号21欄の売上は控訴人個人の売上と認めるのを相当とする。甲第一号証の一、二は右認定の妨げとなるものではなく、訴訟人本人尋問の結果(原審)中右認定に反する部分は採用できない。」

4  五五丁表末行の冒頭から五六丁表一〇行目末尾までを次のとおり改め、五六丁裏一行目の「21」を「43」と改め、二行目の「六億六〇二六万六四〇〇円」を「六億三二二六万六四〇〇円」と改める。

「(3) 別表4順号43欄の売上について

原本の存在、成立とも争いのない乙第一七〇号証は、控訴人を売主、森川好造を買主とする土地売買契約書であり、これによれば、被控訴人主張の売上が認められるごとくである。しかしながら、成立に争いのない甲第四号証の一ないし五、控訴人本人尋問の結果(当審)により真正に成立したものと認められる甲第一八号証の一、第一九号証、第二五号証(原本の存在とも)、証人鈴木豊の証言及び控訴人本人尋問の結果(原、当審)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は、当初、渋谷又市から大宮市櫛引町所在の土地を買受け、これを森川好造に売却したが、控訴人が渋谷に対し、手付金を支払ったのみで売買残代金を支払えなかったため、右売買契約はいずれも解約となり、その後、渋谷が直接森川に売渡したものであり(一部は国鉄を経由して)、そのため登記簿上も渋谷(又はその家族)から森川宛に直接所有権移転登記が経由されていることが認められる。

乙第二四二号証も右認定の妨げとなるものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがって、前記乙第一七〇号証をもって控訴人に同金額の売上があったことの証拠とすることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

5  五七丁裏二行目から三行目にかけての「6、7、8及び10」を「6、8、10及び12」と改め、五九丁表七行目の「結果」の次に「(原審)」を加え、同丁裏六行目から七行目にかけて及び九行目の各「一億一四五五万六二二〇円」をいずれも「一億〇九六九万八二二〇円」と、八行目の「六億六〇二六万六四〇〇円」を「六億三二二六万六四〇〇円」とそれぞれ改める。

6  六〇丁裏六行目と六一丁表一行目の各「五六一万二二六四円」をいずれも「五三七万四二六四円」と、六〇丁裏末行の「六億六〇二六万六四〇〇円」を「六億三二二六万六四〇〇円」とそれぞれ改め、六一丁表一〇行目の「売上担当者」の前に「平均して、」を加え、六二丁表二行目から三行目にかけて及び六行目から七行目にかけての各「五四〇一万三四二二円」をいずれも「五一七二万二八六八円」と、四行目の「六億六〇二六万六四〇〇円」を「六億三二二六万六四〇〇円」と、同行目から五行目にかけて及び六行目の各「一億七一四七万一一八四円」をいずれも「一億六四一九万九五八四円」と、六四丁裏八行目の「六一九二万二二四三円」を「五九三九万三六八九円」とそれぞれ改める。

7  六五丁表一〇行目、同丁裏三行目、六六丁表二行目、九行目及び同丁裏未行の各「結果」の次に「(原審)」を、六七丁裏九行目の「措信できず」の次に「(この点に関する控訴人の原審及び当審における弁解は、乙第二三九号証によって認められる控訴人の関東信越国税不服審判所長に対する陳述とも大きく異なるものであって採用できない。)」を、一〇行目の「証拠がなく」の次に「(成立に争いのない乙第二三六号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二三七号証、控訴人本人尋問の結果(原審)によれば、右甲第五号証の三、四は、いずれも後日、控訴人が偽造したものであることが明らかである。)」をそれぞれ加える。

8  六八丁表八行目の「五二六三万三九七七円」を「五〇三〇万四五三一円」と改める。

9  六八丁表一〇行目から末行にかけての「なされたものであり」の次に「(なお、控訴人は、更正処分後になされた調査により判明した理由をもって、当該更正処分の適法性を基礎付けることは許されないと主張するが、課税処分取消訴訟における訴訟物は処分の違法性一般であり、処分理由は処分時に客観的に存在していれば足りるものであるから、税務署長は、処分時の認定理由に拘束されることなく、その後の調査により新たに発見した事実を追加し、処分理由を差し替えることも許されるものと解すべきである。)」を加える。

二  以上の次第であるから、右と結論において同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 前島勝三 裁判官笹村將文は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 牧野利秋)

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